
第三話
テレビで馴染みの二枚目俳優が街の大型ビジョンに映し出される
今売り出し中の男性化粧品のCMだ
鏡に映る己の顔にやつれたと言ってはケチをつけ自嘲気味に眉を顰める
どんなにやつれたってあんたは結局いい男さと私は心の中で毒づきながら信号が変わるのを待った
ここのところ私はずっと二つの顔について考えている
一つは男性の顔でもう一つは女性の顔、最近夢によく見る二人だ
不思議なことに相手がどんな顔をしているのか夢の中でも既にわからず、目が覚めた後となれば尚更だった
夢なんてそんなものさと思うかもしれないがそういう事ではない
その相手の実態がつかめず途方に暮れているというのがその夢の本筋なのだ
夢は決まってゴシック調に彩られ階段やシャンデリアそしてティーセットなど、特定のアイテムで飾られる
小物類が鈍い煌めきを発している
小物・・・そう、あれはあの店だ
あのドールハウスの喫茶店
貴族の青年はあの額の絵だ
夢の中の彼は生身の身体でそこにいるようだった
だがより一層に霞んで見えて絵画のあの日以上に希薄だったし
そもそも絵の中の彼の顔などとうに忘れていた
そしてその彼を見つめる女性はあの人だ
彼女の顔に至っては結局あの当日からわからないのだ
呼んでいるのだろうか?夢の中で・・
夢の中で私はその女性と対峙しやがて世界は淡いベールの帳(とばり)に包まれる
しかし実際には何事かの訴えかけにただただ戸惑い目が覚める
ここ最近、朝の洗面に立つ私は決まってその事を考えながらため息をつく
あの大型ビジョンの俳優とは違い単純にやつれた顔を撫でながら
行くか・・もう一度
横断歩道の人込みを避けながら大きく迂回して渡る
行かなければいけない、何故か知らないがそんな気持ちで足を踏み出した
* * * *
「額縁・・・ですか?」
やんわりと穏やかに愛想よくそれでいて目端が利く、彼女そんなタイプに思えるんだが・・
ドールハウスが所狭しと飾られたこのギャラリー兼喫茶店、SAD CAFEの女性店員だ
どうもこの店員とは噛み合わない。というか先日から言ってることがちぐはぐだ
「観覧でしたらご自由にどうぞ~」
改めて二階見学を申し出ようかとついでに額絵について聞いた結果だった
彼女そんな絵は無いと言う
奥の部屋は何ヵ月もの間手付かずで何も動かしていないと
やれやれ、きっと何か勘違いしているのだろう
私は前回と同じものを注文し、そして座席を離れると前と同じように階段を軋ませゆっくりと二階へ上がった
二階の部屋には西日が差し込み今日は埃までもがキラキラと輝いている
なるほどあの日より少し時間が遅いようだと壁掛けの時計に目をやり一人私は合点した
あちこちに置かれた時計たちはある物はミニチュア細工に至るまで大まかにだが時間が合わされている
この西日の差し込みようならひょっとして
やはりそうだ
大部屋の窓から差し込む西日が斜めに奥の部屋の入り口付近を照射している
探せば灯りのスイッチぐらいはあっただろうがこの調子なら相手の顔がわからないなんてことはない
そう、私は再び彼女に会えることを期待していた
だが、あのガラス細工のテーブル席に彼女の姿はなく
その正面の壁にもあの額縁はなかった
あの店員が言うように少なくとも今は
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