
第四話
「もしよかったら・・」
ガタンッ――――
不意を打たれた
私は飛び上がりこそしなかったが盛大に足を鳴らして振り向いた
いつの間にやらあの店員が二階まで来ている
「ごめんなさい。あの、もしよかったらこちらへお運びしましょうか?」
「そんな事も出来るんですか?あいや結構です、下で・・」
「ちょっと思い出したことが・・あっ、ですよね」
何だろう煮え切らないこの感じ
何かあるんだろうか
奥歯にものが挟まったというかひょっとして話したい事でもあるのか
「あ、ではお言葉に甘えて」
一人二階でティーを頂くとか多少の特別感もあったし何より気になった
というか気にならないわけがない。こっちは聞きたいことだらけだ
ここまでのところちっとも話が噛み合っていないがもちろんあの絵画の件だろうか
それともあの日ここで会った女性の事かもしれないし、ただその期待虚しく全くの別件だったとしても何かすっきりしない事が続いているわけで・・
そんな風にせわしなく考えを巡らしながら心なしか嬉しそうに階下へ向かう彼女の姿を見送った
今まで気が付かなかったが額絵が掛けられていた壁にも物が置ける段差とスペースがあり、ここにもドールハウスが置かれていた
それは入って正面の壁から絵があったはずの奥まった所へと続き、他と同様にミニチュア家具や中の部屋を露わにした建物たちが並んでいる
私はちょうど絵のあった壁面に置かれた洋館を覗き込んだ
それは居並ぶ作品の中でも特に本格的に作り込まれた大規模なもので内部にざっと7部屋程は見て取れた
「ああ・・」
間違いない。私は思わず声を上げていた
そのミニチュアハウスは中央に一階から二階まで吹き抜けでエントランス風の大広間がある
広間をぐるりと囲むように階段があり、その階段踊り場付近の壁に掛けられたものに目を奪われた
小さいが間違いない。あの日見た男性の肖像画だった

ミシッ・・・カチャカチャ――――
店員が上がって来る
慣れているのだろうあのギシギシと音の鳴る階段を私よりはるかに静かに足を運んでいる
私は言葉もなく口を開け、ただただ渦中のドールハウスを指さしながら彼女が来るのを待っていた
茶器を乗せたトレーを手に器用にバランスを取りながら立つ彼女はそんな私に
――――ですよね
と、たった一言言ってのけ私に座席を勧めてくれた
紅茶とケーキがテーブルに置かれた
ここはあの日、あの女性が座っていた席だ
テーブルはそれ自体がガラス細工のように見えたがその原因はキラキラとしたたくさんの小物のせいだ
まるで標本箱か収納ケースのような作りでその上にガラス天板が置かれている
それらは大きな裁縫箱のようにも見えたが例えば小さな女の子にとっての宝箱に違いない

「誰でもじゃないんです」
「はい?」
「誰でもみんなに見えて話が通じるわけじゃないんです。だから私話が分からない素振りを」
「ちょっと待ってください。いったい何の・・」
分かっているはずだ――――
「絵の中の男性とそれを見つめる女性の話です。男性は緋色のコート・・軍装かしら?そして女性は髪を後ろで束ねてる。そうでしょ?」
そうだ。まったくその通りだ。だが見えるとか通じるとか何故そんな話になる
「ほらやっぱり。だから私知らないふりを・・」
「いや、ちょっと待ってください」
本来なら霊的な話に耳を傾ける気などまるで無い
まして私にとっては現実にあった出来事なのだから尚更だ
だが、目の前の女性に残念な思いをさせたくはないと、その一心でのみ踏みとどまった
「あの奥の絵と同じような気が、その・・ここに掛けられていた絵ですが」
それには応えず彼女は次にこう言った
「夢見ませんか?」
「え・・?ああそうか、そうなんですね」
私は何か一つでも納得したわけではなかった。ただ一つ、彼女も同じ夢を見るのかというその事が・・その事だけで自分に了解を与えるには十分だった
私はまるで何かを観念したように着席し、そしてテーブルに置かれたものに目をやった
「本日のこれは?」
「タルトです。自家製チーズケーキタルト」
「いい誉め言葉も知りませんがこちらのは甘さが上品です。先日そう思いました」
「最高の誉め言葉です」
そう言うと彼女は何やらお見せしたいものがあると言って席を外し遂には軽やかに階下へ下りて行った
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