SAD CAFE ドールハウスの憂鬱

二階の女(ひと)

第二話

目の前の光景に目が眩む
彼女を取り巻く何かがおかしい
何系って言うのか人形みたいな格好をしているが服装がどうとかいう問題じゃない
まるで目の前の絵画の中の空気をそのまま引きずり出してきたように見える
ちょうどだまし絵やからくり部屋を見ている時のようになかなか目の焦点が合わず、それほどにその女(ひと)は異質だった

彼女こっちを見てるんだろうか
見てるはずだ。気配でわかる
部屋が暗いといっても僅か数歩先にいる人の顔が見えないほどじゃない
なのに気配でしかわからない
私は指で目頭を押さえながらあとずさる様に部屋を出た

何という事だ

自分が信じられない
目の前に人がいたというのに声もかけずにその場を後にしている
私はこれは激しい眩暈のせいだと自分に言い聞かせながらふらつく足取りで階段を下りた


  * * * * *


あのミルクティーはまだ十分に暖かくそして甘く、私の気持ちを次第に落ち着かせた
そして思い返すようにゆっくりと、二階に上がってからの自らの動線を目で追った

そういえば彼女の前には何もサーブされていなかったように思う
という事は店の人間なのかもしれない
そうやって少しづつでも現実に繋がる情報に置き換えることで何故だか私は安堵した

あれは知っている――――

落ち着きを取り戻すにつれ先程までとは打って変わって暖かな世界に包まれ始めた
それはまるで二階という場所から魔法をかけられて戻って来たかのようだったし
あるいはこの甘いミルクティーの仕業だったかもしれない

あれは知っている。恋する目だ
暗がりの中、彼女の視線の行方もはっきりとしなかったはずなのに何故だかその事を明確に感じた
額に収まり凛々しく立つあの男性に、あの絵の中の男性に寄せる彼女の思い
そんな気持ちが伝わるようでそして同時にそんな彼女に抱く私のこの思いもまた、例え一過性であるにせよ恋心なのかもしれなかった

「ありがとうございました」
「紅茶本当においしかった。二階の方(かた)はお店の人?」
「?・・・あ、本当ですか。ありがとうございます」
「え?あ・・はい」

聞こえなかったんだろうか
変な会話だったな

私は口に残る茶葉の香りにとうに忘れていたこの想いを重ね、未だ夢見る足取りでこの店を後にした



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投稿者: satire.tokyo

古くに取得したドメイン名が乗り移り今では風刺画どころかハイパーアートさえ自称する老獪あなたの町の独居老人satire.tokyo

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