
第一話
まいいか、入っちゃえば
後で知ったけどドールハウスと言うらしい
いいや、ドールハウスじゃ小さすぎて入れないな
アンティーク小物が置いてある喫茶店、ここはそんなイメージだった
なぜだかどうしても入ってみたかった
以前はミニチュア家具やそのドールハウスのギャラリーだったという事でそれがのちに飲食の提供も始めたそうだ
だがそこまで知っていればますます入れずにいただろう
とにかく私のような男が一人で来る場所ではない
「こちらどうぞ」
店員の案内で奥の離れのような一角に席を通された
決して広くはない店だったがそのことに一見(いちげん)の私に対する気遣いを感じる
本日の~と書かれたティーの一式を注文しながら言い訳みたいに辺りを見回す。まるで中はこんな風だったかというゼスチャーが中年男性がここにいていい理由になるかのように
童話の中にでも迷い込んだような少女趣味のインテリアは壁紙の柄からして私の人生にはないものだったがよく見ると貼り付けの雑さが目に付く
しかし大胆というか思い切りもいいのだろう、お気に入りの家具や作品との調和を優先しながら常に手を加えているといったところだ
センスと労力との兼ね合い・・そんな言葉が頭に浮かんだ
所狭しと置かれたミニチュアの中には丸ごと一つの部屋のイメージで作られたものが多い
どれも精巧な細工で飾られファンじゃなくとも見ているだけで引きずり込まれそうな魅力がある
カチャ カチャ ―――
サーブされたミルクティーのポットには保温のためだろう毛糸の服が着せられている
それを普通に飲んでいいものかと一瞬ひるんだがそんな風にちゃんと淹れられた紅茶は初めてだったらしくミルクと茶葉本来が十分に甘いことを知るに至った
私は思い切って訊いてみた
「二階拝見しても?」
「あ、どうぞ~」
この店はおそらく内装からして自前で手が加えられている
そう感じていたが思いのほかギシギシと鳴る階段にここもだったかと少々驚いた
正直言ってしまえば大雑把な改装工事の仕事ぶりから二階まで組んだようには思えない
だとすると階段は付け足しか
ギシッ・・・
左手に壁を見ながら階段を上がる
上がりきった右手のこの部屋は窓からの採光によって薄ぼんやりと明るく
置かれたミニチュアたちは銘々に光を反射させどれもキラキラと輝いていた
ただそれと同時に昨日は工房で今日は喫茶といったある種混沌が横たわり、私は一瞬初めから博物館か何かに来ていたような錯覚を覚えた
そう言えばワークショップの日程なんてことがどこかに書かれていた
私はそんなことを思いながらそこかしこにある作品たちに次々と目を這わせた
トッ――――
ぐるりと頭を巡らした
音だったか、それとも気配か・・・
何事か感じる
見ると上がって来た階段から振り向いた場所にもう一つ部屋がある
最初のスペースとの間仕切りはあったがドアなどはなくここから見る以上中は暗い
私は窺うように中を覗き込んだ
どうやら間仕切りだと思ったのは大型のアンティーク家具が置かれていただけのようだ
だがたったそれだけの事で今度は打って変わって光が届かないようだった
最初に私の目に飛び込んできたのは大きな一枚の絵だった
部屋に入って正面の壁の一番奥まったところ、そこに掛けられた絵だ
額に入れられ飾られているその絵は中世をイメージしたものだろうか貴族風の男性が描かれている
そしてそれを前にしてガラス細工のテーブルが置かれていたが、そこには意外なことに一人の女性が気配無く佇んでいた
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